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福岡地方裁判所 昭和54年(ワ)317号 判決 1981年3月25日

原告 国

代理人 中野昌治 山下碩樹 ほか二名

被告 段下優 ほか一〇名

三一七号事件原告補助参加人 農林中央金庫

主文

一  昭和五四年(ワ)第二〇四号事件について

福岡地方裁判所昭和五三年(ケ)第二七〇号船舶強制競売事件において、同裁判所が昭和五四年一月三〇日作成した別表1の配当表のうち、被告らに係る配当金を別表7の「昭和五四年(ワ)第二〇四号事件関係新配当表」の配当金額のとおりに変更する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

二  昭和五四年(ワ)第三一七号事件について

福岡地方裁判所昭和五三年(ケ)第二六九号船舶強制競売事件において、同裁判所が昭和五四年二月六日作成した別表4の配当表のうち、被告らに係る配当金を別表8の「昭和五四年(ワ)第三一七号事件関係新配当表」の配当金額のとおりに変更する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用(参加によつて生じた費用を除く)中、原告と被告牛島與四広、被告吉安清、被告吉安道江との間に生じたものは右被告らの負担として、原告と被告橋本武、被告松藤五三郎との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告大阪譲との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、参加によつて生じた費用は、これを三分し、その二を被告牛島與四広、被告吉安清、被告吉安道江、被告大阪譲の、その余を補助参加人の、各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五四年(ワ)第二〇四号事件について)

一  請求の趣旨

1  福岡地方裁判所昭和五三年(ケ)第二七〇号船舶強制競売事件において、同裁判所が昭和五四年一月三〇日作成した別表1の配当表のうち、被告らに係る配当金を、別表2の修正配当表の修正後の配当金額のとおりに変更する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和五四年(ワ)第三一七号事件について)

一  請求の趣旨

1  福岡地方裁判所昭和五三年(ケ)第二六九号船舶強制競売事件において、同裁判所が昭和五四年二月一六日作成した別表4の配当表の順位1吉岡千太郎ほか六名のうち被告らに係る配当金を別表5の修正配当表の修正後の配当金額のとおりに変更する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和五四年(ワ)第二〇四号事件について)

一  請求原因

1  原告国(所轄庁福岡国税局長)は、昭和五三年二月六日現在における租税債権として、訴外富永ヒサエ(以下「滞納者」という。)に対し金二七四八万七〇〇〇円を、訴外富永水産株式会社(以下「滞納会社」という。)に対し金一八二〇万七一四二円を、それぞれ有していた。

2  原告は、滞納者及び滞納会社の各租税債権の納税担保のため、昭和五三年二月六日滞納会社との間で滞納会社所有の第六八蛭子丸についてそれぞれ抵当権設定契約を締結し、いずれも同月八日抵当権設定登記を経由した(但し、換価は猶予していた。)。

3  滞納会社は、昭和五三年七月一八日手形の不渡を出して倒産したので、原告は、同年七月二六日滞納会社に対し換価の猶予を取り消すとともに、同年八月七日第六八蛭子丸を担保物処分のため差し押え、同月九日その旨の登記を了した。また、滞納者についても滞納会社の倒産により今後の納税が見込めなかつたので、昭和五三年七月二六日換価の猶予を取り消し、同年八月九日第六八子蛭子丸を担保物処分のため参加差押をした。

4  一方、これより先滞納会社の従業員であつた被告段下優が昭和五三年八月七日福岡地方裁判所に第六八蛭子丸の強制競売の申立て(同裁判所昭和五三年(ケ)第二七〇号船舶強制競売事件)をしていたので、原告は、昭和五三年八月二一日滞納者及び滞納会社の各租税債権について同裁判所にそれぞれ交付要求をした。

5  右事件の配当手続において、福岡地方裁判所は、昭和五四年一月三〇日の配当期日に別表1の配当表を作成した。

6  しかし、被告らが商法八四二条七号の船員債権の先取特権に基づく債権として配当を求めている別表3の「第六八蛭子丸船員債権」の「請求額」欄記載の金額のうち同表の「否認額」欄記載の金額は、商法八四二条七号にいう船員債権に該当しないもの、該当したとしても商法八四七条一項によつて除外されるもの、滞納会社が前払給料として支払済みのもの等が含まれている。

7  そこで、原告は、前記配当期日において、被告らに対する配当金のうち、別表3の「第六八蛭子丸船員債権」の「否認額」欄記載の金額について異議を述べた。

8  よつて、原告は、別表1の配当表中の原告及び被告の配当金の額を請求の趣旨第一項記載のとおりに変更することを求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因1ないし5の事実は認める。同6のうち、別表3の「第六八蛭子丸船員債権」の「否認額」欄記載の債権のうち、被告らの待機手当、被告段下、同杉、同藤本、同山本の未払賃金債権、被告広末、同段下の有給休暇債権、被告段下の賞与については、原告の否認が正当であり、被告らの配当金額から控除されるべきことは認めるが、その余は争う。同7の事実は認める。

三  抗弁

1  被告らは、原告が異議を述べた債権につき、原告の否認を正当と認めた債権以外の部分については、滞納会社に対し、次のとおり別表3「第六八蛭子丸船員債権」の「請求額」欄記載の各債権及びこれに対する昭和五三年七月二三日から昭和五四年一月三〇日までの民法所定年五分の割合による遅延損害金債権を有するものであり、これらはいずれも商法八四二条七号の債権に該当する。

(一) 雇止手当について

被告らは、昭和五三年七月二三日第六八蛭子丸の船舶所有者であつた滞納会社から、同船舶の乗組員としての雇入契約を解除されたが、これにより滞納会社は、船員法四六条三号に基づき被告らに対し、一か月分の給料相当額の雇止手当を支給すべき義務を負うところ、被告らの所属する福徳船員労働組合と滞納会社との間の労働協約において、右雇止手当の金額を航海支給金の二か月分とする旨定められているから、被告らの雇止手当は、別表3「第六八蛭子丸船員債権」の「雇止手当」欄の「請求額」欄記載の金額となる。右雇止手当は、雇入契約をした船舶所有者が雇入契約上の義務として支給すべきものであるから、商法八四二条七号の債権に該当する。

(二) 被告広末、同藤本の慰労金について

前記福徳船員労働組合と滞納会社との間の労働協約においては、会社の事業閉鎖、解散による船員の解雇の場合には、会社における在職期間が一〇年以上の船員には金一〇万円、一五年以上の船員については金三〇万円を、それぞれ慰労金として支給する旨定めているところ、解雇時の在職期間は被告広末が一八年一一か月、被告藤本が一〇年一一か月であつたから、滞納会社に対し、被告広末は三〇万円、被告藤本は二〇万円の各慰労金債権を有している。

右慰労金は、退職金の加算額としての性格を有するものであるから、商法八四二条七号の債権に該当することは明らかである。

(三) 被告広末の未払債権について

被告広末が未払賃金として請求している債権のうち、原告の否認額は、同被告の昭和五一年度および昭和五二年度の漁撈長賞与の未払分であり、被告広末は、滞納会社に対し右未払賃金債権を有しているものである。

四  抗弁に対する答弁

否認する。

商法八四二条七号にいう「雇傭契約」とは、船員労働契約の実態、同条の沿革からして特定の船舶に乗り組み、当該船舶の航海組織の構成員として使用される関係である雇入契約をさすものと解すべきところ、同号の債権につき先取特権が認められるのは、雇入船員労働が総債権者の担保たる船舶の維持、保存のために役立つていることと、船員及びその家族の保護という社会政策上の必要性の二点にあるが、その被担保債権の範囲を画する基準としては、前者によつた方が明確であるから、同号の「船員債権」とは、雇入契約の存在すなわち労働の対価として支給されるものに限るべきである。そうすると、雇止手当は、雇入契約の解除に伴つて支払われるものであるから、その本質は、雇入期間中の労働の慰労と雇入契約解除参の船員の生活の保障のために支払われる手当ないし下船により船員の労働条件が極度に低下することへの補償的措置の性格を有するものにすぎず、労働それ自体の対価ではないから商法八四二条七号にいう「雇傭契約から生じた債権」にあたらない。また、慰労金は労働の対価でないことは明らかであるから、これも商法八四二条七号の債権にあたらない。

(昭和五四年(ワ)第三一七号事件について)

一  請求原因

1  原告国(所轄庁福岡国税局長)は、滞納会社に対し、昭和五三年八月一八日現在において、租税債権一九〇五万九九四二円を有していた。

2  原告は、滞納会社の右租税債権を徴収するため、昭和五三年八月一八日滞納会社所有の第五八蛭子丸を差し押え、同月一九日その旨の登記を了した。

3  ところが、これより先滞納会社の従業員であつた訴外吉岡千太郎が昭和五三年八月三日福岡地方裁判所に第五八蛭子丸の強制競売の申立て(同裁判所昭和五三年(ケ)第二六九号船舶強制競売事件)をしていたので、原告は、昭和五三年九月五日滞納会社の租税債権について同裁判所に交付要求をした。

4  右事件の配当手続において、福岡地方裁判所は、別表4の配当表を作成した。

5  しかし、被告吉安清、同吉安道江を除くその余の被告ら及び訴外吉安義弘が商法八四二条七号の船員債権の先取特権に基づく債権として配当を求めている別表6の「第五八蛭子丸船員債権」の「請求額」欄記載の金額のうち同表の「否認額」欄記載の金額は、商法八四二条七号にいう船員債権に該当しない。

6  そこで、原告は、前記配当期日において、被告らに対する配当金のうち、別表6の「第五八蛭子丸船員債権」の「否認額」欄記載の金額について異議を述べた。

7  訴外吉安義弘は、昭和五三年一二月二六日死亡し、被告吉安清、同吉安道江が同訴外人の権利義務を承継した。

8  よつて、原告は、別表4の配当表中の原告及び被告らの配当金の額を請求の趣旨第一項記載のとおり変更することを求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因1ないし4の事実は認める。同5のうち、別表6の「第五八蛭子丸船員債権」の「否認額」欄記載の債権のうち、被告大坂、同牛島、訴外吉安義弘の有給休暇債権及び賞与については、原告の否認が正当であり、被告らの配当金額から控除されるべきことは認めるが、被告橋本、同大坂、同松藤の雇止手当については争う。同6、7の事実は認める。

三  抗弁

1  被告吉安清、同吉安道江を除く被告ら及び訴外吉安義弘は、原告が異議を述べた債権につき、原告の否認を正当と認めた債権以外の部分については、滞納会社に対し、別表6「第五八蛭子丸船員債権」の「請求額」欄記載の各債権及びこれに対する昭和五三年七月二六日から昭和五四年二月一六日までの民法所定年五分の割合による遅延損害金債権を有するものであり、これらはいずれも商法八四二条七号の債権に該当する。

なお、被告橋本、同大坂、同松藤の有する雇止手当債権は昭和五四年(ワ)第二〇四号事件の抗弁と同様の理由で、商法八四二条七号にいう債権に該当する。

四  抗弁に対する答弁

否認する。雇止手当が商法八四二条七号にいう債権にあたらないことは、昭和五四年(ワ)第二〇四号事件の抗弁に対する答弁において述べたとおりである。

第三証拠 <略>

理由

第一昭和五四年(ワ)第二〇四号事件について

一  請求原因1ないし5の事実及び同6のうち、別表3の「第六八蛭子丸船員債権」の「否認額」欄記載の債権のうち、被告らの待機手当、被告段下、同杉、同藤本、同山本の未払賃金債権、被告広末、同段下の有給休暇債権、被告段下の賞与については、原告の否認が正当であり、被告らの配当金額から控除されるべきことは当事者間に争いがない。

二  原告は、被告らが主張する債権のうちには商法八四二条七号に該当しないものがある旨異議を述べるので、以下検討する。

1  商法八四二条七号は、雇傭契約によつて生じた船長その他の船員の債権について、特定船舶等に対して先取特権を認めているが、その立法理由は、船舶に乗り組んだ船長その他の船員は、船舶で危険な航海上の労務に服することにより自らの生計を維持していることから、同人及びその家族の生活を保護しようとする社会政策上の配慮を主たる理由とし、あわせて船員の労務により当該船舶が総債権者のため維持・保存されることから、船員の債権があつてはじめて他の債権者の弁済が可能となるという意味で、その債権が担保の原因をなすという理由に基づくものと解することができる。

しかして、右の立法趣旨に鑑みるときは、同条七号にいう「船長其他ノ船員」とは、雇傭契約に基づいて特定の船舶に乗り組み、継続して船舶の航海上の労務に服する者すなわち特定船舶の人的機関を構成する者であつて、船員法にいう船長及び海員を指すものと解されるから、同号にいう「雇傭契約」とは船員法にいう「雇入契約」を指すものとみるのが相当である。

そうすると、商法八四二条七号の「雇傭契約ニ因リテ生ジタル船長其他ノ船員ノ債権」とは、船員法上の船長及び海員が有する、雇入契約に因つて生じた債権を指すこととなるが、雇入契約が船員らの乗組労働を前提とするものである以上、右債権は船員らの乗組労働と対価関係を有する雇入契約上の債権をいうと解すべきである。

2  そこで、右の前提のもとに原告が異議を述べた被告ら主張の債権が生じたか否か及びそれらが本号所定の債権に該当するか否かの点について検討する。

(一) 被告らの雇止手当について

<証拠略>によると、被告らは、第六八蛭子丸の所有者である滞納会社に、被告広末は船長兼漁撈長として、その余の被告らは船員として、いずれも雇入れられていたものであるが、滞納会社が倒産したため、昭和五三年七月一九日滞納会社から雇入契約を解除されたこと、ところで、被告らはいずれも福徳船員労働組合の組合員であるが、昭和五三年六月三〇日、同労働組合と滞納会社との間で滞納会社は、その所属乗組員に対し、船員法四六条による雇止手当を労働協約の航海支給金協定額に読み替えて二か月分を支給する旨の協定が成立したこと、右協定に基づく被告らの雇止手当額は、別表3の「第六八蛭子丸船員債権」の「雇止手当」欄の「請求額」欄記載の金員となることが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、雇止手当は船員法四六条一号ないし五号の事由が生じたときに船員に対し支給されるもので、本件では滞納会社が倒産したため雇入契約の解除となつたものであるから、同条一号による場合と解されるところ、同条では雇止手当は一か月分の給料の額と同額とされているが、同条は雇止手当としての最低額を法定したものと解すべきで、もとより雇入契約の当事者の合意によりこれを増額することを妨げるものではないから、被告らは右認定した滞納会社との協定に基づく労働協約に定めた航海支給金協定額の二か月分を雇止手当として請求し得るものというべく、従つて、被告らは、滞納会社に対し、雇止手当としてその主張の債権を有するということができる。

そこで、右雇止手当が商法八四二条七号の債権に該当するか否かについて検討するのに、まず、船員法四六条の規定の仕方からすると、雇止手当は、船舶所有者の利益のため自らの一方的な事由により船員を雇止める場合または船員が船舶所有者側に責むべき事由があるため雇入契約を解除する場合に支給されるものであることが窺われるから、右手当は、主として雇入契約の終了により船員において再就職までの間失業生活を余儀なくされることを考慮したもので、再就職までの生活補償的色彩と雇入契約に基づく従前の労働に対する慰労金的色彩とを併有しているものと解すべきであるが、他方雇止手当は一定の事由により雇入契約が終了したときはそれを機に当然に支払われるべきものであること(船員法四六条)、右手当については給料と共に差押が禁止されており、(同法一一五条)また、給料その他の報酬との調整が予定されていること(同法一一四条)からすると、雇止手当は窮極的には、船員と責に帰すべき事由がないにもかかわらず雇入契約が終了したことにより、船員が労働を提供する機会を船舶所有者から奪われたことに対する船員及びその家族の保護を目的として支給されるものといえるから、船員の労働の対価と同様に扱うのが相当である。従つて、雇止手当は、商法八四二条七号所定の債権に該当するというべきであり、このことは、滞納会社と福徳船員労働組合との間の<証拠略>の退職金支給規定において雇止手当が給料の後払たる性格を有するとされる退職金の中に組み込まれていること(右規定一一条参照)からも明らかである。

ところで、右退職金規定一一条二項によれば退職金の額が雇止手当の額に満たないときはその差額を退職金に加算すると規定されているが、同条三項においては、会社の都合による経営合理化、縮少に伴う解散船、売船、会社閉鎖による船員解雇の場合は雇止手当は退職金とは別個に支給するものとされているから、被告らの雇止手当はいずれも商法八四二条七号の債権としての保護を受けることとなる。

(二) 被告広末、同藤本の慰労金について

<証拠略>によると、滞納会社と福徳船員労働組合との協定(昭和五三年六月三〇日付確認書)により、訴外会社が事業閉鎖、解散により船員を解雇した場合、滞納会社は組合員たる船員に対し、慰労金として、在職五年以上の者に対し一〇万円、一〇年以上の者に対し二〇万円、一五年以上の者に対し三〇万円をそれぞれ支給する旨約していること、滞納会社から解雇されるまでの間、被告広末は一八年一一か月、被告藤本は、一〇年一一か月それぞれ滞納会社に在職していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、滞納会社に対し、被告広末は三〇万円、被告藤本は二〇万円の各慰労金債権を有していることが認められる。

そこで右慰労金が商法八四二条七号の債権に該当するか否かについて検討するのに、<証拠略>によると、滞納会社と福徳船員労働組合との間で協定された退職金支給規定においては、在勤中の勤務成績が特に良好で会社に対し功績があると認められる者に対しては退職金とは別に特別功労金を支給することがある旨定められている(同規定一〇条)こと、慰労金は、右の特別功労金の枠を広げ、退職金の上積額として支給することとしたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、右慰労金は、退職金としての性格を有するものであるし、退職者に一律に支給されるものではなく五年以上在職した者に対してのみその勤務年数に応じて支給されていることからして、単に再就職までの生活保障のための給付金とみることはできず、船員の勤続すなわち労働の対価としての意味合いを有するものとみるのが相当であるから、右債権は商法八四二条七号の債権としての保護を受けるものというべきである。

(三) 被告広末の未払賃金について

<証拠略>によると、被告広末は滞納会社所有の第六八蛭子丸の船長兼漁撈長であり、滞納会社に対し、漁撈長として受けるべき賃金として、昭和五一年度に三五万円、昭和五二年度に五五万円合計九〇万円の未払賃金債権を有していることが認められる。<証拠略>によると、被告広末に対する昭和五〇、五一年度の漁撈長賞与として合計九〇万円が計上されていることが認められるが、<証拠略>によると、同被告は、昭和五一年から第六八蛭子丸に乗船していることが認められるから、<証拠略>の記載をもつて右認定を左右することはできないし、他に右認定に反する証拠はない。しかして、<証拠略>によると、原告は右債権について異議を述べていることが認められるが、右債権は、被告広末が労働の対価として受けとるべきもので、商法八四二条七号所定の債権に該当することはいうまでもない。

四  以上の説示によると、被告らは、滞納会社との雇傭契約により生じた債権として、被告らが原告の否認を正当と認めた債権を除く各債権とこれに対する昭和五三年七月二三日から昭和五四年一月三〇日までの間の民法所定年五分の割合による遅延損害金(右遅延損害金が先取特権としての保護を受けることは民法三四一条、三七四条の規定により明らかである。)の限度で、原告に優先して弁済を受ける権利を有するというべきであるから、別表1の配当表は別表7の「昭和五四年(ワ)第二〇四号事件関係新配当表」のとおり変更されるべきである。

第二昭和五三年(ワ)第三一七号事件について

一  請求原因1ないし4、同6の事実及び同5の事実のうち、別表6の「第五八蛭子丸船員債権の「否認額」欄記載の債権のうち、被告大坂、同牛島、訴外吉安義弘の有給休暇債権及び賞与については、原告の否認が正当であり、被告らの配当金額から控除されるべきことは当事者間に争いがない。

二  原告は、被告橋本、同大坂、同松藤の雇止手当について異議を述べるところ、<証拠略>によると、右被告らは第五八蛭子丸の所有者である滞納会社に船員として雇入れられていたものであるが、滞納会社が倒産したため、滞納会社から雇入契約を解除されたこと、右被告らは、福徳船員労働組合の組合員であり、第一の二2(一)で認定したとおり同労働組合と滞納会社との間に成立した協定に基づき、滞納会社に対し、雇止手当として別表6の「第五八蛭子丸船員債権」の「雇止手当」欄の「請求額」欄記載の金員を有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、雇止手当は商法八四二条七号所定の債権に該当することは第一の二2(一)において述べたとおりであるから、右被告らはこれにつき原告に優先して配当を受けることができることとなる。

三  <証拠略>によると、訴外吉安義弘は昭和五三年一二月二六日死亡し、被告吉安清、同吉安道江が相続により同訴外人の権利義務を承継したことが認められる。

四  以上の説示によると、被告らは、滞納会社との雇傭契約により生じた債権として被告らが原告の否認を正当と認めた債権を除く各債権とこれに対する昭和五三年七月二六日から昭和五四年二月一六日までの間の民法所定年五分の割合による遅延損害金(右遅延損害金は、民法三四一条、三七四条の規定により先取特権としての保護を受けるものである。)の限度で、原告の債権に優先して弁済を受けうるというべきであるから、別表4の配当表は、別表8の「昭和五四年(ワ)第三一七号事件関係新配当表」のとおり変更されるべきである。

第三結論

よつて、原告の請求は、昭和五四年(ワ)第二〇四号事件につき配当表を別表7のとおりに、昭和五四年(ワ)第三一七号事件につき配当表を別表8のとおりに変更する限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山口幸雄)

別表1ないし8 <略>

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